2016年3月 第34回国際芸術映画祭(International Festival of Films on Art)参加抄録 / SUGIMOTO 杉本博司 Hiroshi Sugimoto

モントリオールで開催されていた第34回国際芸術映画祭(International Festival of Films on Art)が3/10-20の会期を終了した。この国際芸術映画祭は芸術に関する映像作品を世界公募している世界最大規模の映画祭である。
私は2014年に制作した「つむぎの思想—志村ふくみの世界」でエントリーしてコンペ部門に入選したため、3/15日から22日の旅程で参加して来た。覚書的な形で映画祭を紹介しておきたい。
34回目となる今年は公募で約600本のエントリーがあり、コンペティション部門42本、コンペ外の選外として40本、今年の企画でとして約50本の作品が会期中モントリオール市内7ヶ所のシアターで上映された。
モントリオール近代美術館

まず参加作品の「つむぎの思想—志村ふくみの世界」について。
2014年に稲盛財団の主催する京都賞を受賞された志村ふくみさんの受賞記念のワークショップのために制作した映像を、劇場上映用に再編集したもの。京都賞の受賞記念ワークショップでは、志村さんのコンセプトやその受賞理由を映像によって表現して欲しいという依頼で、映像の内容は普段の仕事場の様子に加えて、自然や氏の故郷の風景から影響を受けられたであろう色彩と、「つむぐ」ための作業の音で構成した。ワークショップでは、鼎談やレクチャーなどの合間に上映するために5つの短い映像を制作した。そのうちの3つの映像を抜粋して繋げたものが、現在京都賞の公式YouTubeでも御覧いただける。今回は劇場用にタイトルテロップ、クレジット、各パートの繋ぎ、エンディング等を見直して1本にした。3月21日まで開催されていた国立京都近代美術館で開催されていた志村ふくみ氏の個展でも会場で紹介していただいた。この展覧会は沖縄美術・博物館、世田谷美術館にも巡回するのでそちらでも御覧いただける予定。
 映画祭での公式上映は2回あった。どちらもモントリオール美術館のホールでの上映で、1回目は審査員も同席で木曜日の午後3時という時間だったがチケットは完売しており、観たいものは並んででも多少高く払っても観るという人が多い。あらためてモントリオールの観客のレベルの高さを感じた。

私はこれまでに12本の作品を1996年から出品しており、今回の滞在は8回目だった。20年前に比べると全体的に洗練されて来たのだが、今年は印刷したカタログがなくweb上で作品を確認する様になっていた事や、夜9時以降の上映が無くなっていた。最終は8時までのスタートで、以前は土日だけだった午前中のプログラムを平日にも設けていた事が大きな変化だった。昔は最終が夜中12時を回ってしまっても質疑応答などをしていたのが懐かしい。
以下気になった作品を紹介。
どのジャンルでも現代社会と芸術の関係性を表す様な作品や過去の戦争との関連を描いたものが目に付いた。中でも「One Million Steps」はトルコのイスタンブールが舞台。日常の街角でタップダンスを踊る女性ダンサーが子供や老人たちの笑顔の中で様々なパフォーマンスを見せるが、やがて場面は展開してデモ隊とのコラボレーションに。デモを終息させる警官隊との衝突で和やかな場面は瞬時に崩壊する。今世界で起こっている社会問題と芸術との関係性をタップダンスやアニメーションを基軸に描いた短編。審査員賞を受賞したが、私はこの作品がグランプリでも良かったと思う。グランプリを獲得したのは「The Collection That Did Not」。コンセプチャルアートのコレクションという形の無いものを蒐集するコレクターHerman Daledのドキュメンタリー。作品紹介をする様なドキュメンタリーとは違い、ハーマンの語りやキュレーターや作家のインタビューで、コンセプチャルアートをコレクションする意味について考察するという挑戦的な作品として評価された様だ。作品はカードに記載されたリストやその内容であるために視覚化は出来ないので、映像としてそれをうまく消化出来ていたかは疑問。93分という長い時間の大半は会話なので、この映像作品自体がコンセプチャルなのかも知れない。
 今回の入選作で多かったのが建築をテーマにしたものだ。被写体として魅力的なフランク・ゲーリーは2本、オーストラリアとフランスで作られたものがコンペに入選しており、「Getting Frank Gehry」はアート&デザイン賞を受賞した。建築を描いたもので顕著だったのはほとんどの作品てドローンによる撮影が多く見られた。ドローンでの空撮が今まで見られなかった建築のアングルを実現して簡単に複雑な形状を紹介できるようになった事は建築をテーマにする映像の質をステップアップさせた。また内装の撮影にも移動撮影のジンバルなどが多用され、こちらも興味深いアングルを多用して構成したものが多かった。
現代美術ではホックニーとは何かというテーマのその名も「Hockney」。今までも彼を題材にした映画は多数作られているが、この作品は112分の長編。長編であるけれども様々なエピソードや細かく取材された内容、イメージの美しさなどが展開して飽きささない。ポートレイト賞を受賞した。
私の印象に残ったのは音楽のジャンル。やはり良かったのはクリエーション賞を受賞した「Soundhunters, A musical」。音とは何か、サウンドアートとは何かを求めて男女2人が様々なサウンドアーティストの工房を訪問するという設定。音もイメージも登場する男女も美しい。そして紹介されるアーティストたちの音へのこだわりがインタビューを交えて興味深く紹介される。中でもあのMusic for One Apartment and Six Drummers を作ったMagnus B?rjesonnのインタビューは面白い。「これを作った時はこんなに受け入れられるとは思わなかった。ああ、これで良いんだと思ったよ」今見てもこの作品は傑作だと思う。
テレビ番組として作られた「Our Gay Wedding: The Musical」はイギリスとウェールズで2014年に同性の結婚が認められた機会に、新郎ベンジャミンとネイサンテーラーはミュージカルとして結婚式を書き、上演した。家族までもが歌で参加するという試みと、バックスクリーンではこれまでの同性婚が認められた歴史などを振り返ると共に様々な著名人のお祝いの言葉、テレビ番組らしい演出でもあるがほほ笑ましく描かれた祭典として記録されていた。同性婚が認められた国やアメリカの州はまだまだ少数だけれども、この作品を観ると日本ももっと積極的な議論がされるべきだと思う。日本の憲法の該当部分には「両性」となっているので必ずそれが異性でなければならないという定めはないし、何よりも個人として尊重されるという事を考えると認める方が自然であると思える。
音楽ものでもう一つ興味深かったのは「Yearning for the Presence | Ringen um die Gegenwart」現代オペラのメイキングだ。オペラ自体に馴染みの無い私は現代オペラは観た事がない。ドイツ語なので何を歌っているかわからないけれども、舞台設定はパスポートコントロール、移民を扱っている。今世界が抱える問題を展開していた。
教育部門の賞を獲ったのは「Viva Dada」アルテ、ポンピドゥセンターの合作は強力。
7年ぶりの現地参加だったが、例年より気温が暖かだった事と滞在が後半だけだったこともあってあっと言う間の1週間だった。以前に比べて会期中の上映本数を絞っているが、いざ観たいものをリスト化するとなかなか全て観られない。オフィシャルホテルにビデオライブラリーが設けられて参加者はそこで観たい作品が自由に観られるけれど、やっぱり1日に3,4時間が限界だった。
映画祭としては創始者のルネ・ロゾン(RENE ROZON)氏がアーティスティック・ディレクターに退いて新しいディレクターにナタリー・ビゾネッテ(NATHALIE BISSONNETTE)氏が就任。過去を継承しながら徐々に世代交代して行く様だ。
舞台挨拶の壇上から記念撮影 モントリオール美術館 
インターネットでも映像が見られる時代の映画祭という上映会の形式は変って行くのかも知れないと思う事もあるが、やはり観客の生の反応や対面で得られる感想や意見は貴重で、それが私の制作にも大きく関わってきた。モントリオールは毎月のように様々な映画祭が開催されている世界有数の映画都市とも言える。それは観たいものは掘り下げて、観たくないと思ったら途中で出て行くというレベルの高い観客によって支えられている。素晴らしい文化だと思う。





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SUGIMOTO 杉本博司 Hiroshi Sugimoto from Ufer! Art Documentary on Vimeo.
SUGIMOTO
日本語/English Subtitles

2008年から5年間、杉本博司の作家活動を追いかけた。写真作品を中心に立体から舞台、美術コレクションまでを手がけ、妥協をせずに何でも自分でやってみないと気が済まないアーティストは、どんな風に時間を使っているのだろうか。様々なアイデアを具体的な形として作品化してゆく過程を堪能しながら、研ぎ澄ました作品を創出してきた杉本。その根幹には常に人はどこから来てどこへ行くのかという作品コンセプトと共に、人類の行く末を憂いでいる姿がある。
本作品はインタビューを軸に渡米から今日に至るまでの経緯や、8x10写真へのこだわりを紹介。また杉本作品の中核のひとつであるジオラマシリーズをアメリカ自然史博物館で撮影する杉本に同行し、現像、プリントの一連の工程を初めて動画に収録。金沢21世紀美術館や国立国際美術館での個展のメイキングやイズ・フォト・ミュージアム、原美術館での造園作業、杉本文楽のメイキングなどを紹介すると共に、駄洒落好きでオチがないと満足しない、徹底して人生を楽しむ杉本博司という作家に出会っていただける。
http://www.ufer.co.jp/works/sugimoto/

出演・杉本博司 監督・岸本康
Appearance by Hiroshi SUGIMOTO
Directed by Yasushi KISHIMOTO

本編/66分
Original story 66min.

The film follows the artistic life of Hiroshi Sugimoto from 2008 to 2013. While an established photographer, the artist also produces sculpture, performance and has his own art collection. Given his tendency to perfectionism, how he is able to manage his time among his various projects is a mystery. Sugimoto enjoys the process in which his ideas realize concrete form and has produced many brilliant works. All his work seems to share the question, where do we come from and go from here, in common, raising issues about the fate of mankind in the process.
In the film, Sugimoto himself talks about his journey since his debut in the US and his career up to today, and his fascination with 8x10 photos. The film also comprehensively captures the artist’s production process for the first time, including a diorama photo shoot, one of his most well-known works, at the American Museum of Natural History, as well as developing and printing at his studio. Going backstage at his exhibition at the 21st Century Museum of Contemporary Art, Kanazawa, The National Museum of Art, Osaka, Izu Photo Museum, Hara Museum and of his Bunraku performance, the film reveals Sugimoto’s playful, yet rigorous, enjoyment of life.
http://www.ufer.co.jp/works/sugimoto/english.html

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